韓国の戸籍とは:歴史・仕組み・現行制度まで徹底解説
1. はじめに:韓国戸籍とは何か
「戸籍(호적/戸籍)」とは、国民一人ひとりの家族関係を記録する制度です。日本にも同名の制度がありますが、韓国の戸籍制度は歴史的背景・運用方法・社会的な役割において日本とは大きく異なります。
韓国では、1945年の独立以降、日本統治時代の「戸籍法」を継承しつつ、自国の社会構造に合わせて改正を重ねてきました。しかし、2008年に従来の戸籍制度が廃止され、現在は「家族関係登録制度(가족관계등록제도)」へ完全に移行しています。
それでもなお、「韓国の戸籍」とは何だったのか、また現在の制度がどのように機能しているのかを理解することは、韓国社会の家族観・法的アイデンティティを知るうえで非常に重要です。
2. 戦前から続く制度の起源 ― 日本統治下の戸籍制度
韓国の戸籍制度の起源は、日本の統治時代(1910〜1945年)に導入された日本式戸籍法にあります。当時の「朝鮮戸籍令(朝鮮戸籍령)」は、日本の戸籍制度をほぼそのまま適用したものでした。
この制度は、個人の身分関係を国家が一元的に把握するために導入されたものであり、「家(家族単位)」を社会の最小単位とする日本の家制度の思想を色濃く反映していました。
戸籍は家ごとに作られ、家長(호주/戸主)が中心となって構成員を管理します。家族構成、出生、婚姻、養子縁組、死亡などがこの戸籍簿に記録され、行政上・法的な本人確認の根拠とされました。
3. 解放後から近代化まで ― 韓国独自の戸籍制度へ
1945年の日本の敗戦とともに朝鮮は解放を迎えます。その後、韓国政府は独自の「戸籍法(호적법)」を1948年に制定し、日本統治時代の制度を基礎にしつつも、韓国社会の実情に合わせた形に再編しました。
戦後の戸籍制度では、依然として「家」を単位とする仕組みが続きました。戸主(호주)という概念も維持され、戸主が家族の法的代表として登録されるという伝統的家族観が根強く残りました。
たとえば、婚姻すると女性は夫の戸籍に入り、夫が戸主である家の一員として記録されました。このように、戸籍制度は韓国社会における「家父長制」を支える仕組みでもあり、法的にも家族の上下関係を明確にするものでした。
4. 社会変化と制度の限界 ― 批判と廃止への道
1980年代以降、韓国社会では民主化の進展とともに「個人の権利」や「男女平等」の意識が高まりました。こうした社会の変化に対し、家父長制を前提とする戸籍制度は次第に時代遅れとみなされるようになります。
主な問題点は次の通りです:
-
家父長制の固定化:戸主(家長)の権限が強く、女性や子供の法的地位が弱かった。
-
差別的な身分表示:非嫡出子(婚外子)などに対して社会的烙印を与える結果となった。
-
プライバシーの侵害:戸籍を通じて家族関係がすべて公開される構造に批判が集まった。
-
多様な家族形態への非対応:離婚、再婚、シングルマザー家庭などが増える中、制度が柔軟に対応できなかった。
こうした批判を受け、政府は長期的な検討の末、2005年に「家族関係登録等に関する法律(가족관계등록법)」を制定し、2008年に施行。100年以上続いた戸籍制度は正式に廃止されました。
5. 現行制度:「家族関係登録制度」とは
2008年から導入された新制度では、「家」単位ではなく「個人単位」で身分関係を登録します。これにより、韓国は法的に「家制度」から脱却したことになります。
新しい制度では、従来の「戸籍簿(호적부)」の代わりに、以下の5種類の証明書に分かれました。
-
家族関係証明書(가족관계증명서)
個人を中心に、その両親・配偶者・子供などの関係を記載。 -
基本証明書(기본증명서)
出生、死亡、改名、国籍取得・喪失などの基本的な身分事項を記録。 -
婚姻関係証明書(혼인관계증명서)
婚姻や離婚の履歴を明示。 -
養子関係証明書(입양관계증명서)
養子縁組やその解除を証明。 -
親権関係証明書(친권관계증명서)
親権者の指定や変更を明らかにする書類。
これらはすべて電子的に管理され、必要に応じて個人ごとに発行されます。つまり、**「家族の誰かの戸籍に入る」**という概念は消滅し、誰もが自分自身の登録主体となりました。
基本関係証明書、婚姻関係証明書、家族関係証明書、入養関係証明書及び親養子入養関係証明書は帰化申請時には申請者本人については、この全てが必要です。
6. 日本の戸籍制度との比較
韓国と日本はともに「戸籍」という言葉を用いますが、現行制度の性質は大きく異なります。
比較項目 | 日本の戸籍制度 | 韓国の家族関係登録制度 |
---|---|---|
単位 | 家(世帯) | 個人 |
管理方法 | 市区町村単位(紙またはデジタル) | 全国電子登録システム |
戸主制度 | 1947年に廃止 | 2008年に廃止 |
登録内容 | 家族全員の情報が1つの戸籍に記載 | 個人ごとに家族関係証明書を発行 |
記録の透明性 | 戸籍謄本で全員の情報が閲覧可能 | 個人情報保護の観点から限定開示 |
社会的背景 | 家族共同体重視 | 個人の尊重・平等を重視 |
このように、韓国は日本よりも一歩進んで「個人中心の身分登録制度」へと転換を果たしたといえます。
7. 韓国における戸籍の法的意義(現在)
2008年以降も「戸籍」という言葉は一般的に使われますが、法的には「家族関係登録」が正式名称です。行政上の本人確認、婚姻・相続・国籍・養子縁組などの手続きには、この登録情報が不可欠です。
例えば、外国人と結婚する場合や、在日韓国人が日本で相続手続きを行う際には、韓国の家族関係証明書・婚姻関係証明書などが提出書類として求められます。
また、韓国国内ではこれらの証明書をオンラインで即時発行できる「政府24(정부24)」という電子行政ポータルが整備されており、非常に効率的な運用がされています。
8. 海外在住韓国人(在外同胞)と戸籍の関係
韓国籍を持つ在外同胞も、韓国の家族関係登録簿に記録されます。たとえ海外で生まれ育ったとしても、韓国国籍を有する限り、出生届・婚姻届・死亡届などを在外公館(大使館・領事館)を通じて届け出なければなりません。
そのため、韓国国籍者の「身分の証明」は、今でもこの登録制度を通じて確認されることになります。日本在住の韓国人や、帰化を検討する人々にとっても、この家族関係登録制度の理解は欠かせません。
9. まとめ:韓国の戸籍制度が示す社会の変化
韓国の戸籍制度の歴史は、単なる行政手続きの変遷ではなく、「家」から「個人」への社会構造の変化を象徴しています。
かつては家父長が中心となり、家族全員の法的地位を決めていた制度が、現在では一人ひとりの人権とプライバシーを尊重する仕組みへと移行しました。
これは韓国社会が近代化・民主化・ジェンダー平等化の中で、どのように「家族」という概念を再定義してきたかを示す具体的な例でもあります。
今後も少子化、国際結婚、同性婚など、家族の形はさらに多様化していくでしょう。そのとき、「戸籍」あるいは「家族関係登録制度」は、個人の尊厳と社会の多様性をどのように両立させていくのか――韓国の制度はその一つのモデルとして注目されています。
⇒韓国戸籍取寄せへ